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篠笛その4 何の打算もなく

某月某日、篠笛のおけいこ4回目。仕事をダーッと片付けて、帰宅途中の電車の中で最短でできる夕飯のメニューを考え、スーパーへ駆け込む。あらかじめイメージした通り店内を最短ルートでまわって商品を買い物カゴに入れ、どのレジの進みが早いかを見極めて列に並ぶ。
帰宅したらすかさず道々イメージした通りの手順を再現しながら夕飯を作り、身支度を調えているとインターホンが鳴った。シッターさんの到着。オンタイム。後は彼女に託して再び駅へダーッシュ!電車に乗ってほっと一息。ようやく今日のおけいこへと気持ちが向かう。徐々に、体の中にも別な時間が流れ出す。

私には小学生の子どもが一人。それゆえ基本的に夜の外出はあまり自由にはならない。おけいこは平日の夜7時。その間、子どもはシッターさんに見てもらっている。仕事の都合でお願いするのと違って、習い事のためにシッターさんとはちょっと贅沢かもしれない。けれど、2週間に1度くらい、そんな日があったってバチは当たらない、よね?
仕事のための時間、主婦としての時間、母としての時間、自分自身の時間。1日24時間をどう割り振るか、なかなかのせめぎ合いである。だから、自分自身の時間は本当に会いたい人、本当に見たいもの、本当に行きたいところ、本当にやりたいことに割きたいと思う。もちろん完全には思い通りにならないけれど。

おけいこ場へ向かう途中の急坂。一歩一歩上りながら、前回のおけいこの内容を反芻する

おけいこ場へ向かう途中の急坂。一歩一歩上りながら、前回のおけいこの内容を反芻する

 

おけいこの時間は、効率性、合理性で刻まれていく日常生活とはまったく異なった速度で流れていく。義務や責任、立場、役割というものから解放され、ただの一個人となって、ただ笛を吹くことだけに向き合い、鳴らなかった一音が鳴っては喜び、できていたことができなくなっては首をかしげ、唇の先に全神経を集中して息が音に変わる瞬間を探す。つたないながらも音をつなげて、曲らしきものを奏でる。
「うさぎうさぎ」や「子もりうた」、「さくら」など、子どもの頃に覚えた懐かしい曲を練習しながら、いくつになっても初めてやることは新鮮で、できなかったことができるようになるのは喜びであることに変わりはないなと思う。

習い事は投資の一種という考え方もある。そのスキルを身につけたらどんなリターンがあるのか。何の役に立つのか。だけど、伝統芸能のおけいこにはそういう考え方はあまりそぐわないのかなぁと思う。料理教室や英会話教室とは違い、笛が吹けるようになったとて何かの役に立つわけではない。でもだからこそ、そこには何の打算もない。ただ純粋に喜びがあるだけだ。

つかの間のおけいこの時間が終わると、夢から覚めたシンデレラではないが、現実の世界へとまた戻る。シンデレラと違うのは、戻る先もまた愛する日常だというところか。何はともあれ、おけいこ、楽しや♪

(ここん管理人M)

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