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能楽その4 自意識との戦い

 

お稽古もなんだかんだで4回目。謡、仕舞いともひと通りの流れが頭に入り、これでやっとスタート地点に立てたかな、という感じです。例えて言うなら、おにぎりを握ろうとしてご飯を手のひらにのせたところで、まだおにぎりとしては全く形を成していない。そんな状態。
不格好でもそれなりにおにぎりになるのか。それともただのご飯のかたまりで終わってしまうのか。残り6回でなんとか食べられるおにぎりに…じゃなく、見られるものにしたい。

謡の発声の基本は「ハラから声を出す」。実際の能舞台は広く、マイクなしで客席まで声が聞こえなくてはいけないので、声をいかに遠くまで響かせることができるかが重視されます。能楽師さんたちはどなったりがなったりしているわけでもなく、口も小さくしか開いていないのに声が非常によく響く。お腹だけでなく体のいろんなところで響かせているような感じですが、まずはお腹から声を出すことが基本。それもできるだけ大きく出す。

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しかし私、この「ハラから声を出す」というのが感覚としてまったくわからない。お腹に力を入れて、と言われてお腹に力は入れても、同時に喉や肩にも力が入ってしまい、結果的に声はお腹から出てこない。声を張ろうとすると喉がどんどん締まってきてしまう。自分の身体ながら声ひとつ出すにもちっとも自由にならないものだなと思う。
四苦八苦している私の横で朗々と声を響かせているのはK嬢。「さーかーずーきーのぉぉぉぉ〜」と、実に気持ちよさそうに長々と節を伸ばしたりして。一緒にうたっているこちらは息が続かない。聞けば彼女は小さいころから3軒先の近所まで響くほどの歌声の持ち主だったらしい。

おけいこの帰り、K嬢に「ハラから声を出す感覚がよくわからない」と言うと、「本気で声出してる?」と言われてしまった。もちろんよー、と即答しかけて、待てよ、果たして私は本気で声を出していたかしら?
真剣にうたってはいたけど、声のボリュームが100%であったかと言われれば、否。なんとなく「このくらいかな?」という感覚で出している。
声を出すのも筋トレと同じで、一朝一夕にでるものではなく、少しずつ負荷をかけて繰り返し練習していくと出るようになるものです、と先生はおっしゃる。私は「負荷」をかけて声を出しているか。否。
全力で、100%のボリュームの声を出す、ということは日常生活でまずしない。カラオケだって、楽しく気持よく歌える程度だし、子どもにカミナリを落とすときだって100%の大声を出したら隣近所に聞こえて恥ずかしい。そう、この恥ずかしいという自意識は声を出す上で非常に邪魔なものだ。

数日後のある日のこと、自宅には私1人、時間は夕方。多少大きな声でうたったところで近所迷惑にはならないだろう。自意識はいったん脇に置き、本気で声を出して一曲うたってみた。声を前へ、遠くへ響かせるような意識で。真剣にうたうと2分ちょっとの曲でもかなり疲れる。うたい終えると身体はじんわりと温かく、息はかすかにあがる。なるほど、これはちょっと筋トレっぽいではないか。今までラクしてきた私の声帯よ、これを機に目覚めてちょうだい。
おけいこも折り返し近くまで来てようやく「ハラから声を出す」というのが少し掴みかけてきたかも。かくして隣近所に聞こえたらちょっと恥ずかしいな、という気持ちと闘いつつ、自主トレに励む今日このごろでありました。

(by ここん管理人2号)

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