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能楽その6 ステキ衝撃

中学生のころ、バスタオルの端と端を、わざとずらして畳んでいた。
ニューヨーカーのように、さらっとカジュアルに畳むことがカッコイイと思って。
いや、「畳む」なんて直線的で端正な言葉は似合わない。もはや「タタム」ぐらいの感覚で。
母に注意されても、「端をそろえることに、何の意味があるの?」と、反抗期の常套句で応酬。
私は意思を持って「畳まない」ことを選択していた。

社会人になって、さすがにそんなこだわりは消えていたが、生来の横着者&プチアメリカン。
折り返し地点を過ぎた仕舞のお稽古で大島先生から言われた言葉は、軽い衝撃だった。

「一つ一つの動きを、折り目正しくやりましょう。」

折り目正しく・・・。そ、そういえば、そんな言葉あったなぁ!!!
私の人生には存在しなかった言葉。すっかり忘れていたこと自体が衝撃だった。
そして、美しい稽古場で、美しい立ち居振る舞いの先生に言われると、
その言葉は妙に甘美に聞こえた。

仕舞は、型の連続で構成されている。私たちが習っている「西王母(せいおうぼ)」という曲でも、一つの型から次の型へ移行する中で、三間四方の舞台を右へ左へ動く。お稽古中、次の目的地に気を取られ流れるように動き出したときに、「折り目正しく」を指摘されたのだ。

ん?

舞台の上を擦るように足を動かして、とにかく滑らかさが際立つ能の舞。
折り目正しくとはどういうことだろう?

大島先生が、動きを“分解”して、詳しく示してくださった。
例えば両足をそろえて正面を向いている。そこから右斜め前に進みたい場合は、
足の裏を常時舞台に接着したまま
①    まず左足だけをねじって目的地である右斜め方向に向け「入」というふうにする。
②    そこから右足も右斜めにねじり、一寸止まる。
③    両足がきちんと同じ方向を向いた段階で、ようやく進み始める、という具合。

さあ、みなさんもやってみましょう。
すっ、すっ、すーーー、っと。 左足、右足、すーーー。

プロの方は、これを丁寧にかつきわめて滑らかに行っているという。
先生のお手本を見ていると、折り目正しさが潜んでいるからこそ美しいということが分かる。

「畳む」ことに屁理屈で反抗していた私も、今なら腑に落ちます、母上様。
そう、「何の意味があるの?」なんて無意味。
敢えて答えるなら、「だって美しんだもん」だろうか。

折り目正しくしたら、気持ちいいと、思った。
自分が美しいかは甚だ疑問だが、その「丁寧さ」が気持ちいい。
オーバー30。気づくのが、遅かったなぁ・・・。
てか、気づいてよかったなぁ・・・!
先生、ありがとうございます!

その日、お稽古の終わりのご挨拶は、正座し、膝前でピシッと指先をそろえ、
いつもよりひときわ深々と頭を垂れた。
10分後には、またプチアメリカンかもしれないが、今この時だけは…!

お稽古を終えて数日。
しばらくこのステキな衝撃を引きずっていたら、原研哉さんの「日本のデザイン」という本の中で、「感覚資源」という言葉に出合った。
天然資源のないこの国を繁栄させてきた資源は、繊細、丁寧、緻密、簡潔に価値をおく感性であり、それはこの国の美意識であり、それを著者は「感覚資源」と呼んだ。
お能のお稽古は、この感覚資源を蓄えることに他ならないと思った。

美しすぎる先生のお背中。 萌え~♪

  美しすぎる先生のお背中。
      萌え~♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

by ここん管理人4号

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