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日本舞踊その4 梅は咲いたか

Text by ここんM

「今日はちょっと違う曲をやりましょうか」

4回目となるこの日、いつも通り40分ほどじっくり時間をかけて基本練習をしたあと、先生がそう提案してくださったのは「梅は咲いたか」。
梅はぁ咲いたかぁ、桜はぁまだかいな~♪ のあれです。

耳にしたことはありましたが、知っていたのは「梅は咲いたか、桜はまだかいな」の1フレーズだけ。そこから「柳なよなよ風次第 山吹ゃ浮気で 色ばっかり しょんがいな」と続くことを、この日初めて知りました。先生の説明によると、これらの植物はいろんなタイプの女性を暗示していて、梅はまだ若い女性、桜は花盛りの年頃、柳は移り気な女性、山吹は実をつけないことから浮気性の女性なのだとか。

年齢的には「屋敷娘」よりも上の女性たちということや、どれも身近に知っている植物なので気持ちを寄せやすい。梅の控えめで愛らしい花姿、あでやかな桜、風に揺れる柳、遠目にも色鮮やかな山吹。動きのほうは相変わらずあやふやで心もとなく、「踊っている」という実感に乏しいけれど、それぞれの花のイメージを重ねながら動くのはなんとも楽しい。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAお稽古が終わると、私たちはいつも呑みながらその日の内容を振り返ります。居酒屋で「梅は咲いたか」の振りを思い出しながら、「柳のゆらゆらしたイメージを想像して動いた」と私が言えば、「私は何も考えてなかった」と別のメンバー。でも柳みたいにしなやかに揺れていたよ、と伝えると「先生の動きをただ真似しただけ」とのこと。言葉のイメージに頼る私に対し、感覚のまま捉えられる彼女。同じ曲をやっていても、アプローチも理解のしかたも、みんな違うのだな。

奇しくも菊之丞先生がこんなことをおっしゃっていました。
「踊りには下手とか上手とか関係なく、その人自身が現れる。羞恥心、自我、プライドというものも出ます。だからそういう殻を全部打ち破って、自分をさらけ出さないと始まらない。逆に下手であっても、その人のよさがふっと見える瞬間がある。そこが踊りを見ていて面白いところです」

すべてを見透かされているような気がしてちょっとドキリとしたお言葉でしたが、そこがスタート地点なんだなと妙に腹にストンと落ちるものがありました。とことんさらけ出して、余計なものを手放して、空っぽになって、そこに残る自分と向き合う。お稽古場とはそういう場所なのかもしれない。シンプルでいいなぁ。そう思ったら、早くも次が待ち遠しくなった帰り道でした。

 
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