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20148/6

能面の面白さ

 
突然ですが、能面をじっくりと見たことはありますか?

写真でなら幾度となく見たことのある能面。しかしこれまで間近で見たことはなく、実物はいつも舞台と客席の距離を挟んでいました。
現在、三井記念美術館で開催中の「能面と能装束 ―みる・しる・くらべる―」。この展覧会で初めて能面を至近距離で鑑賞し、そのディテールに触れ、能面というものが予想以上に面白い存在だったので、その様子を少しご紹介いたします。

展示会場に一歩足を踏み入れて目にしたのは、空間に浮遊しているように展示された能面の数々。展示室1では一点一点ガラスケースに収められた能面が、360度すべての方向から見られるように展示されています。ふだんは目にすることのできない面の裏側もじっくりと見ることができます。

重要文化財 不動 室町~江戸時代 三井記念美術館

重要文化財 不動 室町~江戸時代
三井記念美術館

その中に「肉付き面」と呼ばれる、ちょっといわくつきの面がありました。顔につけると離れなくなり、むりやりにはがそうとしたところ顔の肉がとれてしまったという怖い面。
「つけたら外れなくなる」というホラーは、能面に限らず仮面の「あるある」です。おそるおそる裏側を見ると、なにやらあやしげなシミがにじんでいる…。
「すわ血痕?!」と恐れおののいたのもつかの間、音声ガイドから「木から出たヤニとされています」と流れ、あっさり種明かし。
それでも口をカッと開き、目は怒りで釣り上がったこの面は、そんな伝説もさもありなんといった感じです。

 

 

重要文化財 小面(花の小面) 伝龍右衛門作  室町時代 三井記念美術館

重要文化財
小面(花の小面) 伝龍右衛門作 
室町時代 三井記念美術館

展示室1のもう一つの見どころは、能に心酔した豊臣秀吉が愛玩したという「花の小面」。秀吉はこの他に同じ作者の小面をあと2つ所有し、3つにそれぞれ雪、月、花の名をつけたそうです。若い女性の面だけあって、憂いのないふっくらとした美しい顔。そしてその横には意図的か、小面とは対照的な「痩女」の面が並んでいます。
恨みを抱く女性の幽霊の面だそうで、頬はこけ、眉はなく、口角は下がり、力のない表情をたたえた面です。おもしろいことに、面の裏側から見てもその面の持つ表情やキャラクターがなんとなく伝わってきます。
能役者さんも面をつける瞬間はこの裏側と対峙しているはずで、ここからも何かを受け取って役と同化しているのかもしれないな、などと思いました。

 

 
展示室5では、「くらべる」と題して共通項のある面同士が比較できるように展示されています。例えば白色尉(はくしきじょう)と黒色尉(こくしきじょう)という2つの翁の面。どちらも「能にして能にあらず」といわれる儀式性の高い「翁」という演目にしか使われない面で、あごの部分が切り離された「切りあご」という構造が特徴です。白は格式を、黒は健康を表しているそうですが、色の違いだけでなく、並べてみると口の開き加減、髭の長さ、眉の形などそれぞれ少しずつ違っています。

重要文化財 翁(白色尉) 伝春日作  室町~桃山時代 三井記念美術館

重要文化財
翁(白色尉) 伝春日作 
室町~桃山時代 三井記念美術館

重要文化財 三番叟(黒色尉) 伝春日作 室町時代 三井記念美術館

重要文化財
三番叟(黒色尉) 伝春日作
室町時代 三井記念美術館

女面も単体で見るとどれも同じように見えますが、4つズラリと並んでいるのを見比べるとその違いがはっきりと見て取れました。髪の描き方や表情、輪郭など、わずかな違いの積み重ねが全体の印象を大きく左右しているのがわかります。
面打師は女の顔というものを、老いというものを、よく見ています。通常、年齢を表現するときに手っ取り早いのはシワです。「小面(こおもて)」「孫次郎(まごじろう)」「増女(ぞうおんな)」「曲見(しゃくみ)」の4つの女面が並んでいましたが、この4つの面にはシワの差はありません。何が違うかといえば顔の凹凸。そう、若い顔というのはあまり凹凸がないのです。鼻の脇、頬骨の下、目や口の周り。このあたりのわずかな凹凸の差が十代と中年(といっても30代)の女の顔の差をきっちりと表していました。

と、こんなふうに能面だけでも見どころ満載の展覧会ですが、能を庇護した三井家が誂えたという能装束の数々も見事です。特に縫(ぬい=刺繍)が素晴らしく、当時の技術の高さがうかがえます。デザインも明治から大正にかけての世相があらわれているのか、どことなくモダンで華やか。どれも色使いが非常に印象的でした。

こちらの展覧会は9月21日(日)まで。
音声ガイドを借りるとより深く楽しめますのでオススメです。


能面と能装束 ―みる・しる・くらべる― 三井記念美術館
【特別展示】三越伊勢丹所蔵 歌舞伎衣装「名優たちの名舞台」

能面と能装束チラシ

会期:2014年7月24日(木)−9月21日(日)
※月曜休館。ただし8月11日(月)、9月15日(月)は開館。
開館時間:10:00-17:00(入館は16:30まで)
入館料:一般 1,000円 大学・高校生 500円 中学生以下 無料
展覧会詳細

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