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長唄その9 見えない賑わい

あれよあれよという間に、ついに最後のおけいこ日。

本番を控えた高揚感と、全員で唄うのはこの日が最後とあって、おけいこはいよいよ白熱!「ゆかた会」は10日後に迫っている。

今日は先生の三味線に合わせて、繰り返し本番どおりに唄う。
いつにも増してみんな真剣だ。ぐんと良い声になった友人達の唄に引っ張られるように私も唄う。唄いながらふと、本番が近づくにつれて、周りの音がよく聞こえるようになってきたことに気が付いた。練習のおかげで一人一人の声が大きく聞き取りやすくなったのもあるが、それ以外にも、お互いが周りの音に耳をすますようになったからかなと思う。

長唄を唄う時、合わせるのは意外にも声だけではない。
唄本と扇子もまた、周りと息を合わせて扱わねばならない。

まず唄本。一人なら好きなタイミングでめくればいいが、全員で舞台に乗るとなるとそうもいかない。舞台では唄方の向かって右端に座る「タテ」と呼ばれるリーダーの方がめくるのに合わせて、すすすっと横に並ぶ人がめくるそうだ。

次に扇子。長唄を唄う時は必ず扇子を1本、各々が帯に差して舞台に上がり、自分の前に置く。唄う人だけが手に持ち、唄い終えたら床に置く。演奏中はそれを繰り返す。ツレで一緒に歌う時は「タテ」のタイミングに合わせて扇子を手に取る。

ただ紙をめくるだけ、だた扇子を取るだけ、と思うかもしれない。しかしとにかく唄うのに精一杯の私達にとっては、これもまた結構難しいのである。きっちり「この音の時にめくる!」というふうにはタイミングが決まっていないため、周りの音や気配を感じて揃えなくてはいけないからだ。

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互いが周りの音や気配に耳をすまして、揃って扇子を取る、唄う、扇子を置く、唄本をめくる。

しばらくそうして全員で唄っていると、一人で練習している時よりもたくさんの音が聞こえてくるようになった。唄や三味線の音はもちろん、紙をめくる音、呼吸、視線、気配、それらが一体になり、見えない“声”となって、周りの思いが伝わってくるように感じられた。

ツレの直前に全員揃って扇子をとる時は、緊張感のある(いくよ)という周りの“声”が聞こえて、私も(よしきた)と気合が入る。ページをめくるのが遅れた時は、(今だよ!めくってー!)とあわてて“声”が飛んでくる。はたまた唄に迷ったり間違えたりして(しまった・・・!)と焦っていると、先生の三味線がぐぐぐっとこちらにスピードを合わせてくれて(大丈夫、そのまま)と励ましてくれたり、「ヨォッ」という掛け声で(さぁここで出て!)と先導したりしてくれる。

お客様には見えないところで、「いいねー! まだまだ! お次どうぞ!こっちこっち! さぁいくよ!」と始終賑やかな会話を繰り広げているようなもので、唄っている我々は相当楽しい。

長唄の唄本は楽譜ではないから、歌詞以外のことは何も書かれていない。そのことに最初は驚いたけれど、楽譜ではないからこそ生まれる演奏者同士のやりとりが、難しいだけでなく、こんなに面白いものだったとは!

聴いているだけでは分からなかった嬉しい実感だった。

先生に励まされながら、わいわい続けてきた団体稽古もこれで終了。
次回は三味線を弾いてくださるお二人を交えてのリハーサルが控えている。せっかくなら良い舞台をと全力で支えてくださる先生方に感謝しつつ、本番までもうひと頑張りである。

ここん新弟子N

<長唄の扇子> 同じ邦楽でも、清元と長唄では扇子の形が異なる。上は清元、下の白い地紙が見えている方が長唄用の扇子である。どちらも常に閉じて使うため、舞台上で開く機会はないが、こっそり開いて見せてくださった扇面には、それぞれ作られた方の趣向をこらした絵や書が描かれていた。見えないところにも凝る。素敵♪

<長唄の扇子>
同じ邦楽でも、清元と長唄では扇子の形が異なる。上は清元、下の白い地紙が見えている方が長唄用の扇子である。どちらも常に閉じて使うため、舞台上で開く機会はないが、こっそり開いて見せてくださった扇面には、それぞれ作られた方の趣向をこらした絵や書が描かれていた。見えないところにも凝る。素敵♪

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