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長唄その8 うたがこころをもちあげる

前回、前々回とお休みする人もちらほらいたので、久々に全員そろった8回目のおけいこ。

けいこ場のドアを開けると、目に飛び込んできたのはいつもの黒い文机ではなく、ずらりと並んだ見台(けんだい)。そして白扇(はくせん)。
見台は唄本を載せる台で、白扇は唄うときに手に持つ。どちらも発表会で使うもので、いよいよ浴衣会に向けて本番さながらのおけいこをする、というわけだ。

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(一番古いタイプと言われる組み立て式の平見台。最近では唄本がより見えやすいように、台の部分が斜めになったものが主流だそう)

 

当日の流れをざっと確認すると、今宵もいつもの唄声が響き渡る。すっかり慣れ親しんだ愛しの「供奴」。都合により浴衣会に参加できない私は、分け口の担当がないのでツレ部分(全員で唄うパート)だけを一緒に唄う。ツレ部分は意外と少なく、あとはメンバー一人一人が唄う声に耳をすませ、唄本の文字を追っていく。そんな私の姿は一見、黙ってじっと座っているだけに見えるかもしれない。が、声を出していないだけで、脳内では一文字ももらさず唄っている。黙読ならぬ黙唄いで全パート大熱唱だ。

日々の声帯鍛錬の成果か、私の声は最初の頃に比べてだいぶ出やすくなり、ここんのディーヴァK嬢からも「声が太くなったねー」と言われるようになった。
「苦しい」よりも「楽しい」と思う瞬間が増え、おけいこの時間も短く感じ、あっという間に今日も終わりが来る。もう少しこの時間が続けばいいのに。

ここまでを振り返ってみると、練習はやっぱり嘘をつかないなぁと思う。おけいこの日までしっかり自主練ができていると、その日はちゃんと得るものがあるし、何かしら積み重ねられたという実感がある。終わると充実感と満足感が残り、また次への意欲がわくという、いい循環が生まれる。
反対に、何も準備できてないままのぞむと、あせりと反省とでうまく集中できない。集中できないから得るものも少ないし、時間も長く感じる。終わるとどっと疲れる。

こう書くと、さぞや一生懸命練習しているかのように聞こえるが、第3回の記事にも書いたように実際はいたって気楽な「ながらけいこ」だ。呑みながら料理をするときも、もれなく「供奴」はついてくる。気づくとすっかりいい気分で熱唱していたりする。

生活に溶け込ませ、習慣化することが自主練のコツのようで、疲れているときやなんとなく浮かない日も、「供奴」を口ずさむ。最初は唄うような気分じゃなくても、次第に気持ちが上向いてきて、声のボリュームが上がってくる。お調子者の奴さんの唄を唄っていると、たいていのことは大きな問題ではないのだという気がしてくる。
谷川俊太郎さんが「うんとこしょ」という詩の中で、「うたが こころを もちあげる」と書いていた。まさにそれを実感する、長唄ライフなのである。
(ここんM)

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